危機管理業務部 主任研究員
安藤 正一
東京オリンピックの開会式まで、残り約3ケ月となり、福島県を起点として日本全国を聖火リレーが続いています。
一方で、残念ながら、中国で発生した新型コロナウイルスの感染が我が国を含めて世界中で引き続き続いている状況にあり、我が国のオリンピック組織委員会、東京都、JOC、政府、そして、IOCは、非常に厳しい状況ながら、新型コロナウイルスの感染対策を万全にして、東京オリンピック・パラリンピックを開催するのではないでしょうか。
ここで、このような新型コロナウイルスへの対応に加えて、もう一つの極めて重要な備えがテロ対策です。これまでのオリンピックでもテロ事件が発生しております。
過去のオリンピックでのテロ事件を振り返りますと、1972年に西ドイツのミュンヘンオリンピックの開催中の9月5日にパレスチナのゲリラ集団が選手村のイスラエル宿舎を襲撃し、2人を殺害するとともにイスラエル選手らを人質に収監中のパレスチナ人の解放を求める事件が発生しました。同日夜、9人の人質とともに空軍飛行場に向かったゲリラに対し警官隊、軍隊が救出作戦を決行したものの失敗し、銃撃戦に発展して人質全員が死亡しております。大会は中止も取り沙汰されましたが、国際オリンピック委員会のブランデージ会長は「中止はテロに屈服することにつながる」と主張し、1日ずつ競技実施を繰り下げて大会続行を決定しました。この事件で、開催国の西ドイツ(現ドイツ)の警備体勢の甘さが問題視され、世界中の目が集まる祭典を狙ったテロの脅威への認識が高まりました。しかし、1996年のアトランタオリンピックでも爆発が起き2人が死亡した事件が発生しております。
このように、オリンピックを始めとしてスポーツ大会を狙うテロは今も世界中で発生しており、東京オリンピック・パラリンピックでもテロ対策は重要な課題です。
< 新国立競技場 >
ここで、世界的なスポーツイベントにおいて、長年に亘るテロ対策計画と訓練により多くの人々の救命に成功した例を紹介します。
2013年4月に開催されたボストンマラソンでは、ゴール付近で手製圧力鍋爆弾2発が爆発し、現場で3人が死亡しましたが、搬送された負傷者246人の全員が速やかに病院に搬送されて救命されたのです。
その背景には、約10年かけて、多数の傷病者の発生を予期した救急・救命計画を作成して、そのために必要な関係機関における情報共有システムを構築し、そして、関係機関相互の通信・情報共有と連携強化を目的として、州や市の職員、警察、消防、救急隊と病院など多数の機関が参加して、繰り返し訓練を実施していたのです。このように不測の事態への備えにより、多くの人々の命が救われたのです。
東京オリンピック・パラリンピックにおいても、オリンピック組織委員会、東京都、JOC、政府、そして、各種競技を開催する都市がテロ対策に万全の体制を整えることが求められており、そして、水面下で、しっかりとしたテロ対策計画と訓練が進められているものと思われます。
また、我々日本人一人一人も、東京オリンピック・パラリンピック開催中において、不審な動きをする者、不審車両を見かけたならば、最寄りの警備員や警察官に連絡するように心がけて、この世界的なスポーツイベントが無事に終了することを、心より祈ろうではありませんか。
なお、弊社は長年にわたり、テロ事案などを対象として国民保護計画・措置、国民保護訓練の支援業務に携わっておりまして、経験豊富な人材とデータをもって、訓練のお手伝いさせて頂けるものと考えております。