危機管理業務部 主任研究員
 三宅 丈也


いま求められている新しい訓練の形態
 一般的に防災においては、もしも災害が発生した場合を想定してその初動対応などを「疑似体験」できる「(図上、実動)訓練」を行います。そして、自治体等が災害への「備え」として既に作成している防災計画やマニュアル等を、「訓練」をすることによってその「備え」が果たして妥当なのか、その通りに動けるのか、漏れや重複はないかなどをチェックして改善すべきがあれば改善する、この繰り返し【PDCAサイクル=Plan(計画)→Do(訓練)→Check(評価)→Action(計画修正)】がいざというときに被害を最小限に留める(減災)ことにも繋がります。
 昨今、コントローラーとプレーヤーに分かれて実施するロールプレイング方式の防災図上訓練が一般的なものとなり、各自治体等でも防災訓練の主要な方式として多用されています。その多くは災害対策本部等の組織、一員等としての初動対応などについて訓練をするものですが、一方、実際に現場で行動する自治体職員、警察官・消防隊員や関係機関の職員などを対象とした訓練、いわゆる現場対応者に的を絞って現場感覚を模擬体験させる訓練というものは、実動訓練の他にはこれまでほとんど無かったのではないかと考えます。
 とはいえ、ニーズが果たしてあるのかという観点で見ますと、この現場対応者に的を絞って現場感覚を模擬体験させるような訓練へのニーズは、これまで弊社が支援させて頂いた訓練においても、訓練後の「振り返り」や「アンケート」などでも散見されました。
一部を紹介しますと
「実際の現場では、渋滞状況を見ながら交通整理を終了させるということも必要と感じた。」(アンケート)
「渋滞の緩和措置には相当時間を要すと思料され、配置員の交替要員、新たな規制場所への警察官派遣に要する時間的感覚が見い出せない」(アンケート)
今後の課題は、複合災害への対応、渋滞情報への対応、実員感覚というか、今回は電話やペーパーでの対応が主だったが、実際は現地はどう動いているのか、実員感覚的なものがなかったので、今後訓練できればいいと思う。」(振り返り)
などです。
 すなわち、現場の対応者にとって実動訓練の他、既存のロールプレイング方式の防災図上訓練における状況付与とコントローラー対応(レスポンス)だけでは、どうしても訓練できない現場感覚を模擬体験させる訓練というものが必要であるというニーズが出始めているのです。

実際に始まり出した現場感覚を模擬体験させる訓練
 この様に、防災の世界においても、今後は災対本部等の初動対応や住民避難等の実動訓練はもとより、実際に現場で行動(対応)する自治体職員、警察官・消防隊員や関係機関の職員などを対象とした現場感覚を模擬体験させる訓練が求められていくと思います。
三宅12 実際、弊社が平成30年度に支援したある地方自治体の訓練において、『模擬現場』(仮称)を2ヶ所作って訓練支援をしました。弊社としましても、この種訓練の支援は初の試みではありましたが、陸上自衛隊においては昔から現場の実相を意識させるため、実動訓練はもとより図上訓練においても「戦場」と呼ばれる模擬戦場を作って、統裁部(コントローラー)側と訓練部隊(プレーヤー)側に分かれて実践感覚を磨いています。
 この様に、防災図上訓練においてもその一環として、現場の実相を意識させるために『模擬現場』(仮称)というものを作って現場感覚を模擬体験させることが可能であることが立証されました。
 以下、防災図上訓練において現場対応者に的を絞って現場感覚を模擬体験させる訓練のイメージについて簡単に紹介したいと思います。


『模擬現場』(仮称)による実践的訓練のイメージ
 『交通整理』の場面において現場の警察官等を対象として現場感覚を模擬体験させる場合を例にしてイメージを紹介します。
 あるブースを模擬『交通整理』現場とでも仮称し、ここにコントローラーとプレーヤー(避難誘導・交通規制班の職員(警察官等)など)の双方を呼び込みます。 
 そして、この模擬「交通整理」現場においてコントローラー側が(交通整理の)現場(例えば〇〇町交差点を模擬現場として設想)における渋滞の現状について、現場の拡大地図に私有車、信号、パトカーなどの駒(プラスチック等の標識)を使いつつ「渋滞の方向・規模、凡(およ)その台数、始まった時間、周辺の住民状況など」を具体的にプレーヤーに示し、プレーヤー側は(口頭)付与された模擬現場の状況(設想)の下、交通規制をしている現場警察官、あるいは現場にいる直近上司という立場になりきって、如何にその模擬現場における交通渋滞を現場における具体的な行動(どの方向を重視した信号機や手信号などによる交通規制等)、指示・報告(部下警察官に対する命令・指示(口頭にて)、署などへの報告(実際の無線などの通信手段による))などによって如何に渋滞を解決に導くか、について模擬的に体験実施するというものであり、これによって図上訓練の中においても限定的ですが現場感覚を模擬体験することが可能となります。

『模擬現場』(仮称)訓練によって訓練対象者に期待できる効果
 ヾ愀元ヾ愾蠍澆力携を高められる効果
  実災害等の現場で行動する自治体職員、消防、警察及び関係機関の職員等が『模擬現場』に一堂に会し、状況確認や相互に保有する能力を確認する等、現場対応や現地調整ができます。
 ⊆ら「問題解決ができる能力」を向上させる効果
  プレーヤーとなった現場の職員等や隊のリーダーは 『模擬現場』においてその時々の状況に応じた解決策を考え出す、問題解決能力を鍛えられます。
 J事が順調に進まない場合の次善の策を考えさせる効果
  現場職員等に、現場の行動等における時間的尺度を認識させるとともに、住民対応や、通信手段等の途絶など準備した物事が順調に進まない場合における次善対応を経験させる事ができます。

弊社にしか出来ない、現場感覚を模擬体験させられる訓練支援
 この様に、「『模擬現場』(仮称)を使った実践的訓練」は現場の職員や隊などを指揮するリーダー(プレーヤー)にとっては現場感覚を模擬体験できることから大きな効果が期待できますが、それを統制するコントローラー側にとっての負担は多大なものになるとともに、誰もがコントローラーをすることができるというものではありません。
 コントローラー側には、訓練対象となる想定災害等に対する豊富な知識は勿論、訓練対象者となる現場対応者である自治体、消防、警察及び関係機関などの組織・編成、運用などの概要についての十分な理解が求められる上、コントローラー本人に実災害対応等の豊富な現場経験が無いとなかなか統制することは出来ません。何故ならば、既存のロールプレイング方式の図上訓練の様にあらかじめ状況付与計画・付与カード等が準備され、それを付与して状況によりレスポンス対応をするというだけではありません。
 『模擬現場』(仮称)では、現場にいる自治体職員、警察官、消防隊員や関係機関の職員など、複数(機関、人員など)のプレーヤーを相手にコントローラーは一人で状況に応じた実際的な状況などをリアルに付与して、それに対する現場対応(質問対応)、踏み込んだ更問いによって掘り下げていくなど状況に応じた臨機、現実的な対応をするとともに、プレーヤーの言動(対応)に対して迅速・的確にジャッジあるいは指摘等をしなければなりません。
 プレーヤーである現場対応者が前もって準備、想定していた対応(回答)では立ち行かなくなってしまう程にリアルな対応をして、彼らに現場感覚を模擬体験させていくためのものだからです。正に真剣勝負を繰り広げることになり、コントローラーにはプレーヤーである現場の隊員などが納得する経験に裏打ちされた自信のある統制(災害現場状況の設定や具体的な被害実相の説明、状況推移予測とプレーヤーに対する詳細な質問、更問の実施及び誤りへの指摘など)が求められ、それが出来なければプレーヤーには見向きもされなくなり、訓練効果は一挙に減じてしまいます。つまり、防災の「知識」だけでは、『現場』は統制できないのです。防災には当然、豊富な「知識」が必要ですが「経験」も重要であり、正に『現場』は『現場』を知る、です。

 詳細につきましては「企業秘密」ですのでこれまでとしますが、この現場対応者に的を絞って現場感覚を模擬体験させる訓練、すなわち「『模擬現場』(仮称)を使った実践的訓練」に興味をお持ちになり、是非これまでの防災図上訓練の一環として新たに実施してみたいと思われる方は、ご一報いただければと存じます。
 自然災害等におけるリアルな現場で、警察、消防や関係機関の方々とともに命懸けで人命救助や行方不明者の捜索活動に当ったり、被災者への救護や給水・給食・入浴等支援など、災害対応の第一線である「現場」経験が豊富な元自衛官である社員を多く抱えている弊社だからこそ、この現場対応者に的を絞って現場感覚を模擬体験させる訓練の支援が可能になるものと自負しています。