危機管理業務部 主任研究員
 三宅 丈也


 自然災害、特に地震は何時、何処で発生するかは分かりません。そこで、皆さまがお住いになっている一軒家やアパート、マンション等の危機管理について考えてみたいと思います。
 皆さまのご家庭では、地震等の災害に対する非常持ち出し袋(リュック)を準備したり、被災時における家族間の連絡方法や集合場所の取り決めなどを、日頃からなさっていることと推察致します。
 2011年の東日本大震災では、主に東北地方において甚大な被害が発生し今なお多くの方が避難されており、当(まさ)に復興途上にあります。一方、関東地方においても津波被害のほか、地震動による被害や液状化被害が各所で見られました。私が住む千葉のマンションも一部被害を被り、自宅家財等の一部が散乱・破損等しました。幸か不幸かマンション本体の一部損壊の罹災証明が得られたため、区分所有者名義の地震保険(住宅・家財)を請求でき、保険に入っていて良かったと痛感したものです。被害そのものは軽微で本棚やタンス等が倒れるまでには至りませんでしたが、中には大きくずれたりしたものもあり、元あった場所に戻すのに苦労しました。
 この様に、本棚、タンス、冷蔵庫及び食器棚など、自宅にある家具類は地震動の揺れによっては転倒して人体などに大きな被害を及ぼす可能性があることから、日頃からしっかりと『固定』するなどの転倒防止の備えが求められます。そして、部屋の中にこれら背丈の高い家具類を置かないということが最も良いことですが、現実的にはそうもいきません。そこで、最近では家具類を『固定』するための様々な家具転倒防止用の器具が販売されています。たとえばベルト・チェーン式、伸縮棒・ポール式、ストッパー式や粘着マット式などであり、これらを組み合わせて使用すればより効果が増します。また、その他に家具と壁をL字型金具でネジ固定することにより転倒防止を図る方法があり、特に効果が大きいです。

 更に、家具を置く『向き』に着目すればより減災効果を高めてくれます。
スライド1
 たとえば、アパート、マンションなど数階建てで細長い建物の屋上階付近の部屋の場合、長辺方向と短辺方向のどちらの揺れが一般的により激しくなるでしょうか?
 図1(上方から見た断面図)をご覧ください。
 長辺方向(B〜B’方向)の揺れに対して、短辺方向 (A〜A’方向) の揺れが激しくなるだろうことは容易に想像が付くことと思います。
 また、家具類で可動性(人間の手で動かすことが出来ると仮定)のもののほとんどは「細長く、背丈が高い」ものといえると思いますが、実は家具類を置く『向き』を変えるだけで減災効果が得られます。例えば、図1で揺れが大きくなると推測される短辺方向(A、A’方向)に家具の長辺部分を置く(直交)様にした方が良く、逆に短辺方向に置く(平行)とより転倒し易くなってしまいます。つまり、建物の長辺と家具の長辺を平行にせず、直交する様に置けば減災効果が得られるのです。
 これを実物の部屋に家具類を置いたと仮定して具体的に見てみましょう。
スライド2
 図2(上方から見た断面図)の様に細長い5階建ての某アパートの一室(Aさんの部屋(5階))を例にしてみます。Aさんの部屋には、ご覧の通り幾つかの「細長く、背丈の高い」家具類が置かれており、家具転倒防止器具によって一応『固定』されています。しかしながら、テレビや食器棚、タンスなどの長辺部分は、某アパートの長辺方向に平行して置かれているため、非常に大きな地震があり短辺方向に大きな揺れとなった場合には家具転倒防止器具があまり効かず転倒する可能性もあります。ですから、これら家具類の『向き』を変える必要がありますが優先順位はどうなるでしょう。先ず見直しで優先すべきは、寝室のタンスです。現在の『向き』と直交するように90°変える必要があり、次いでキッチンの食器棚、リビングのテレビの順で同様に変えた方が良いでしょう。

 ではなぜ優先度に差が生じるのでしょうか。
 それは家具を置く『向き』の他に家具を置く『配置(場所)』の考慮が必要となるからです。つまり、Aさんの部屋で寝室の家具の『向き』を変更することが最優先されるのは、もしもAさんが寝ている間に大きな地震が起きた場合にはタンスが転倒してくる虞(おそれ)があるため、これを未然に防ぐためです。すなわち、居住する人から空間的に離れた場所に家具類を『配置』することが「ベスト案」ですが、もしもそれが出来ない場合、万一の際でも人が居る空間を避ける方向に家具類が転倒するように『配置』する「ベター案」を追及すべきと考えます。また、逃げ口を確保するためドア等を塞いだりしない様に、同じくガステーブルやストーブなどの火気の元に当たらない様に、それぞれ『配置』する考慮が大切です。さらに、窓ガラスを割って怪我をしたりしないような『配置』も肝要です。
 この様に、家具を置く『向き』と『配置(場所)』を考慮した上で、冒頭に述べた様な家具転倒防止器具を準備して、これらを組み合わせて設置するなど家具を『固定』すれば、万一の地震によって被る被害を大きく減災することが出来ます。

 皆様のご家庭において、ご自宅建物の長辺方向に対して家具類の長辺部分が平行ではなく直交する様に置かれているかどうかを確認してみましょう。そして、もしも平行している場合には、『向き』を変えたり『配置』を変えてみるなど見直しをされては如何でしょうか。この際、一戸建ての場合でも考え方はほぼ同様ですが、全くの正方形で揺れがより激しくなりそうな方向などは不明だという場合には、家具の『配置』と『固定』に重点を置く方が良いものと考えます。
 皆さまのご自宅で、部屋の模様替えを行う機会がもしございましたら、現状を確認して家族の皆様でよく話し合い転倒し易い家具類が置かれた『向き』や『配置』を見直してみることをお薦めします。そして、見直しをしたならばしっかりと『固定』して下さい。
 この見直しを兼ねた部屋の模様替えは、ご家族の皆さまの気分転換や話題の宝庫として家族団らんの一助にもなりますし、もしもの際にはご自宅の安心・安全を確保して、ご家庭の財産も護ってくれるものと信じます。悩むよりまず行動しましょう。