危機管理業務部 主任研究員
大木 健司
2020年1月15日、日本国内で最初に感染者が確認された時は、他人事であった「新型コロナウイルス感染症」も、約3か月後の4月7日には、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく最初の「緊急事態宣言」が発令されるほどに感染が広がり、2派、3派…、7派はいつ来る?、そのような心配をしながらコロナ禍での生活も3回目の夏を迎えようとしています。
この間にマスクの着用や手指のアルコール消毒が日常生活に定着し、お客様の素顔を拝見することもなく、自分の素顔をお見せすることもなく、業務が終了するという奇妙な現象も生じています。
このようなコロナ禍の中で、大規模な水害が発生した(発生が予想される)時に避難所の中で感染症が発生・拡大することがないよう、国は下記のように市町村が定めた指定避難所だけではなく、それ以外の安全な場所にある親戚・友人の家、ホテル・旅館や自宅の高い階等に避難する「分散避難」を勧めています。
災害から命を守るもっとも有効な手段は早期避難です。新型コロナウイルス感染症の流行下にある現在、避難所への避難を躊躇する人もいるかもしれません。しかし、どんな状況であっても、災害時には命を守ることが最優先です。危険な場所にいる人はどうか迷わず避難することを心がけてください。
ただし、避難イコール「避難所へ行く」ことではありません。危険のない人までが避難所へ避難する必要はありません。安全な親戚や知人の家、あるいはホテルなどへ避難する方法や、浸水や土砂災害の恐れが低い場所では在宅避難という方法もあります。避難で重要なことはあくまでも「難」を「避ける」(自らの身を守る)ことです。
(内閣府防災情報ページから引用)
避難所の開設・運営の主体となる基礎自治体の皆様は、避難所として活用できる施設の確保に大変な苦労をされていることと思いますが、大きな災害が発生した時に避難所が不足するという現象が起こることは間違いないでしょう。
避難所での密集を避けるための「分散避難」ですが、令和2年7月の豪雨では、避難者がどこに避難しているか行政が把握できず、支援が行き届かない等の問題も明らかになりました。特に、熊本県では、1,000人以上が自宅で避難生活を送っていたため、自治体による避難者の把握が難しかったとのことです。
また、屋内での垂直避難等による「在宅避難」も感染リスクをさげる「分散避難」の方法として示されていますが、自宅が安全な(川の近くや低い土地、斜面ではない)場所にあることをハザードマップなどで確認しておく必要があります。
果たして自宅が安全な場所にあるか、どうかを、ハザードマップで確認している(確認できる)人は、どれぐらいいるのでしょうか。
ある機関の調査結果では、ハザードマップを「知らない」、「見たことがない」と回答した人が半数以上いたとの報告もあります。また、ハザードマップを見たことがあっても「ハザードマップのどこを見るか」を知らないという人もかなりいるようです。
ハザードマップの浸水想定地域内でも流失のおそれのない丈夫な住宅がある場合は、浸水深より高い階で水が引くまで我慢する「屋内安全確保」という避難の方法もありますが、飲食料の備蓄が乏しく、停電や断水が我慢できなければ安全な場所での避難とは言えず、「屋内安全確保」は、「立ち退き避難」が困難になった場合の究極の選択です。
また、分散避難の方法として、「車中避難」を勧める資料も見かけますが、「車中避難」は、エコノミークラス症候群発症の原因となるだけでなく、新型コロナ感染の原因となる「3密」状態を生ずることも考えておかなければなりません。
避難行動の原則は、「命を守るためには迷わず避難」です。
今年も出水期が近づいています。災害から命を守るため、「立ち退き避難」のタイミングを逃さず、「逃げられるうちに、より安全な場所に避難する」ことが重要ではないでしょうか。
内閣府防災情報のページより引用