危機管理業務部 主任研究員
井手 正
弊社は、令和4年1月14日(金)、内閣官房、消防庁、高知県、高知市、南国市主催で実施した国民保護共同実動・図上訓練の企画支援業務に携わる機会を得ましたので、その概要について紹介し、所見を申し述べます。
1 訓練の概要
本訓練は、国による武力攻撃予測事態の認定を受け、要避難地域に指定された高知県から避難先地域に指定された山口県及び愛媛県へ、航空機、船舶、バス等の指定(地方)公共機関を活用した県を跨ぐ広域的な住民避難を実動・図上で演練し、国、県、市、指定(地方)公共機関及び関係機関の連携を強化するとともに、国民保護措置への理解の促進を図ることを目的に行われました。
訓練本番では、前段(午前中)、合同対策協議会の場で県を跨ぐ避難に関する調整が山口県・愛媛県を含んだリモート方式により実施され、後段(午後)では、避難実施要領に基づき、高知市・南国市内に設置された住民確認所兼ねて現地調整所から、高知龍馬空港・高知港及び愛媛県まで、大型バスによる広域的な避難住民の輸送訓練と現地調整所を通じての国、県、関係機関との調整が行われ、33機関、約240人が参加する大規模な訓練内容でした。
2 業務支援所見
本訓練は、国として初めての試みとして、武力攻撃予測事態の認定をし、高知県全住民が山口県、愛媛県に避難するという大規模な想定で行われました。
想定上のリアリティという観点ではイメージし辛い面もありましたが、訓練を主催された方々は本訓練の主な狙いが県を跨ぐ大規模な避難要領を演練するということに焦点を当て、それに見合った想定を設定し、その蓋然性は考慮しないという前提で実施されたところです。高知県は南海トラフ発生時に、大規模な避難住民の発生が予測されることから、その訓練との連接においても有効であり、そういう意味でも有意義であったことが確認されました。
なお、令和4年2月、ロシアによるウクライナ侵攻があり、本訓練がその後にあった場合には、訓練参加者のリアリティという面での感じ方もかなり違っていたのではないかと感じます。
次に、訓練参加自治体にとって、高知県の全住民を比較的長期にわたって山口県と愛媛県へ避難させなければならないという視点でのイメージが湧きにくく、初期調整が難航したという面がありました。
私自身も当初の段階では、とりあえず自然災害の指定避難所となる小中学校の体育館や公民館等へ、まず避難させるというイメージはありましたが、その後の中・長期避難(俗に言う、疎開)を前提とした救援を実施していくことの必要性を内閣官房担当の方々の主導的調整により、気付き、理解を深めていきました。
国民保護法第3章「避難住民の救援に関する措置」第75条1項に都道府県知事は収容施設を準備することとしており、その収容施設が中・長期的視点からの準備であることを認識したところです。
また、自治体等で整備している国民保護計画では、市町村が有事に備えて避難実施要領を迅速に作成するため、県外避難を含め、様々なパターンを整備していますが、中・長期的避難という視点で具体化するには、事態に応じ、比較的長期間にわたる調整を経なければ具体化されないというのが現実であることも、今回の訓練でわかり、当初の段階でイメージを持ちにくい一因になったと思います。こういった側面も、ウクライナにおける避難民のマスコミ報道を目にし、改めて現実的に感じたところです。
今回の訓練は、国として初めて行われた訓練であるが故に、上記のような様々な気付きを持つことができました。
危機管理のプロは最悪の事態に備えるということに鑑み、このような訓練を積み重ねていくことが、安全・安心な社会を構築する一助になるものと考え、引き続き危機管理業務に邁進していく所存です。