危機管理業務部 主任研究員
椿山 巌
新型コロナウイルスが、世界中で感染拡大し、未だに収束の目途が立っていません。また、新たな変異株に関する報告が次々と伝えられており、不安な日々は、まだまだ続きそうです。しかしながら、今の世の中を見てみると、ワクチンの効果は、今一つはっきりせず、みなし陽性や濃厚接触者の待機期間など曖昧な対応が多く、何一つ有効な手立てがないまま、マスクの着用と消毒液の設置だけで乗り切ろうとしているようで、何とも情けない状況です。
もしも、こんな時に大規模な地震や水害が発生したら、私たちは、どのように対処しなければならないのか。今回は、自治体などで配られている「新型コロナウイルス感染症 自宅・宿泊療養のしおり」から「自宅・宿泊療養者の災害時の対応」について考えてみたいと思います。

< 新型コロナウイルス感染症 自宅・宿泊療養のしおり(神奈川県HPより) >
神奈川県の「新型コロナウイルス感染症 自宅・宿泊療養のしおり」は、感染状況や医療機関の逼迫状況により、逐次更新されており、2022年3月現在、臨時版 1.1版となっています。全部で15ページあり、主に、自宅・宿泊療養ごとに、その準備や療養期間内の過ごし方が、詳しく説明されています。災害時の対応に関する記載は0.5ページ。決して多いわけではありません。
記載事項は、大きく2つあります。
1つは、「自宅療養している人の宿泊療養施設への避難」に関して。洪水浸水想定区域内や土砂災害警戒区域内等で自宅療養している人の発災時の行動を説明しています。避難所への避難が必要だと市町村が判断した場合、洪水浸水想定区域内や土砂災害警戒区域内等で自宅療養している人は、原則、宿泊療養施設へ避難することになります。その際には、市町村からの指示に従うようお願いしていますが、避難要領等、具体的な内容は記載されていません。自宅療養者といっても、全員が無症状というわけではありませんし、受け入れ可能な施設にも限りがあると思われます。大規模災害時に、発熱のある自宅療養者を、宿泊療養施設へどのように避難させるのかは、市町村にとっても大きな課題となるでしょう。
続いて2つ目は、上記を踏まえて、「事前に検討してほしいこと」。自宅など療養中に滞在する場所が、洪水浸水想定区域内や土砂災害警戒区域内等でないかを、国土交通省のハザードマップで確認し、避難所に避難する可能性があると判断した人は、発災時に、十分な準備ができずに避難することを考慮し、あらかじめ、宿泊療養を検討するよう、促しています。しかしながら、問診等が終わって、このしおりをもらった時点で、自宅・宿泊療養の判断はなされている可能性が高いのです。また、保健所や医療機関の方々が、災害時の対応を踏まえて、しおりの内容を十分に説明する余裕があるとは思えません。
要するに、今、私たち個人にできることは、パンデミックであることを十分に認識し、事前にハザードマップを確認するなど、危機管理を徹底するほかありません。陽性が判明した場合には、安易に自宅療養を選択するのではなく、災害時における自助・共助の態勢をしっかりと整えたうえで判断する必要がありそうです。

< 新型コロナウイルス感染症 自宅・宿泊療養のしおり(神奈川県HPより) >