危機管理業務部 主任研究員
 福島 聡明

※「「首都直下地震等による東京の被害想定」10年ぶりに見直し(その1)」のつづき。
 「その1」は、2022年6月20日付の記事を参照ください。

【身の回りで起こり得る災害シナリオと被害の様相】
 今回の被害想定では、生活に及ぼす影響、交通インフラやライフライン等の被害の様相など、地震の後にどのようなことが身の回りで起こり得るのか、発災直後〜1日後、3日後〜、1週間後〜、1か月後〜(※帰宅困難者のみ、発災直後〜1日後、数日後〜)と分けて、その時々の可能性について時系列で具体的にシミュレーションした「災害シナリオ」が新たに盛り込まれました。
 ただ、災害シナリオに出てくる様々な「可能性」は、具体的な件数や人数では明記されていません。しかし、定量的な想定ではなかなかはじき出せない様々なケース、例えば、鉄道のターミナル駅や繁華街で被災した場合など、あらゆる場面で生じるリスクについて「〜だった場合、〜となる可能性がある」などと具体的・詳細に示すことで、数値化が難しくても数字では表せないようなリアルな状況を想像できるように工夫することで、備えを呼びかけているとのことです。
 それでは、インフラやライフライン・応急対策活動・避難所生活・自宅での避難生活・帰宅困難といった、災害シナリオで示された5つのシチュエーションごとに、被害や影響が時間の経過とともにどのように変化していくのか、詳しく見てみましょう。

➀インフラ・ライフラインの復旧に向けた動き
【画像】災害シナリオ➀
<主要道路では交通規制等により渋滞が発生した(東日本大震災時の様子)>

➊電 力
◆地震発生直後に発生するとみられる停電は、発電所が運転を停止した場合、より広範囲な地域で停電が発生(平均で約12%が停電)し、ブラックアウトになる可能性がある。
◆送電用の鉄塔が多く倒壊した場合には復旧に時間がかかり(停電は長期化。配電設備被害による停電の復旧は約4日後になると想定)、水道やガスなど他のライフラインも損傷した地域では、復旧工事の開始が遅れる。
◆発災1日後、電力供給が不足した場合には、首都機能を担う地域に電力は優先して供給され、その他の地域では計画停電が行われる。
◆電力会社の職員が多く被災すれば、点検作業が進まずに復旧工事は始まらない。
◆3日後からは、電柱や電線の復旧作業によって徐々に停電は減っていくとしているものの、供給が低下したままなのに需要が抑制されないと計画停電が継続する可能性がある。
◆1か月後には停電はほとんど解消されるが、もし発電所の設備で受注生産のような部品が必要な場合には、調達に数か月かかり、復旧まで長期化する可能性がある。
※この想定は、電柱など配電設備の被害から計算しただけで、発電所や変電所などの被災は評価結果には含まれていません。状況によっては被害が大幅に増加し、計画停電などが長期化する可能性があるとしてシナリオの中で注意が促されています。

➋上下水道
◆断水は、23区の3割、多摩地区の1割で発生すると想定
◆水道や下水は1か月後にはおおむね回復するものの、ビルやマンションでは、配管修理が完了しないと水道やトイレを利用できない状況が続く。

➌通 信
◆電話やインターネットは、基地局や電柱の被害で地震直後から使えなくなるほか、通話やデータの送受信が集中することで電話はつながりにくくなり、メールやメッセージのやりとりにも時間がかかるようになる。
◆その後、基地局などで非常用電源の燃料が枯渇すると、利用できない地域が広がるケースもある。
※通信がどの程度不通になるのかは、通信ビルなどの拠点施設や携帯電話基地局の被災、非常用電源の喪失等の被災は具体的に想定できず、輻輳による通信の遅延や制限なども具体的な数がどうなるのか想定に入れることはできていないことから、災害シナリオでは復旧期間が長期化する可能性もあると注意を促しているようです。
※この10年間で都内のスマホなどの携帯電話の契約数は3倍を超える数に増えている一方、固定電話の契約数は半分以下に減少、また、停電や通信規制の影響を受けにくい公衆電話も半減していることから、公衆電話の場所を事前に確認したり通話アプリを活用したりして、複数の手段を利用できるようにしてほしい、と東京都は呼びかけています。


➍鉄 道
◆地震直後にストップした在来線や私鉄は、1週間後でも、脱線や橋脚などの被害によって多くの区間で運行停止のままであり、出勤や帰宅が困難な状況が続く。
◆1か月後には、震度6弱以上の揺れを観測した地域のおよそ6割で復旧するものの、橋脚などの被害の程度によってはさらに復旧まで時間がかかる。

➎道 路
◆地震発生後の救助活動や、物資輸送のために重要となる緊急輸送道路の沿道では、耐震化されていない建物が都内全体で最大81棟倒壊する想定
◆特に震度6強以上のエリアでは、特定緊急輸送道路においても沿道で建築物の倒壊が断続的に生じ、交通支障につながる可能性がある。

➏その他、物資など
◆物資の必要量が最大となるのは発災後1週間で、必要量は食料が最大約4,700万食、飲料水が最大約6,800万リットル、毛布は約399万枚が必要になる想定
※道路被害や渋滞等により、必要なタイミングで必要量の物資を避難所に供給することが困難になることも想定する必要があるとしています。
※東京湾の岸壁の約7割が被害を受け、コンテナなどによる物流に大きな影響を与えるほか、先行きへの不安による買いだめで物資の不足が加速するおそれも指摘しています。


➁救出救助機関等による応急対策活動の展開
 次に、救助活動への影響です。
 以下のような理由などにより、救出救助や被災地支援が遅滞・長期化するおそれがあるとしています。また、新型コロナウイルスなどの感染症を防ぐ対策によって救助活動が遅れたり、逆に、救助活動によって感染症への対応が不十分になるおそれがあるとも想定されています。
【画像】災害シナリオ➁
<交通渋滞により進めなくなっている緊急交通車両(東日本大震災時の様子)>

➊火 災
◆地震の発生直後、住宅や事業所で火気や電気を使う器具から出火するなど、同時多発火災が発生して、鎮火までに丸一日以上かかる。
◆住民が避難した後に電気が復旧した場合、揺れで倒れた電気コンロなどから出火する通電火災が発生し、通報が遅れる可能性がある。
※避難する際はブレーカーを落としてほしい、と東京都は呼びかけています。

➋道 路
◆緊急車両の通行の確保が必要な緊急輸送道路では、一部で沿道の建物が断続的に倒壊するなどして、約40%の区間で時速20km以下の渋滞になる。
◆幅の狭い道路では沿道の建物の倒壊が増え、特に環状7号線と8号線の間や町田市の南部などでは、こうした細い道路が通れなくなる地域が多くなる。
◆上記の被害等のため、陸路で移動する場合、消防や自衛隊の現場到着や、緊急派遣されたDMAT(災害派遣医療チーム)の活動開始が遅れる可能性がある。
◆ヘリポートや格納庫で液状化現象が起きると出動に影響が出るほか、公園や学校のグラウンドに避難者が集まることで、救助のヘリコプターが着陸できないおそれもある。
◆地震発生から数日後には、道路の被害などによっては燃料の供給が遅れ、災害対応車両の活動に影響が出るおそれがある。
◆約1週間後からは道路が徐々に通れるようになるものの、多摩地域の山間部などで土砂崩れが起きた場合は、集落の孤立化が長期化する可能性もある。

 避難生活で想定される災害シナリオは、「H鯑饅蠅任糧鯑饑験茵廚函岫そ擦澳靴譴深宅等での避難生活(在宅避難を続けた時)」に区分して検討されています。

➂避難所での避難生活
【画像】災害シナリオ➂
<停電により真っ暗になっている避難所(東日本大震災時の様子)>

➊避難所をとりまく様相
◆避難所を訪れる避難者は、自宅で避難していた人が家庭の備蓄がなくなるなどもあり、地震発生4日後から1週間後までにピークを迎え、最大約299万人にのぼるとされ、同じように自宅にいられずに避難してきた人などで、廊下や階段の踊り場まであふれる可能性がある。
◆避難所が過密になったり衛生環境がさらに悪化したりして、車中泊など屋外での避難を考える人も出てくる可能性がある。
◆高齢者や既往症がある人らが避難所など慣れない環境での生活で体調を崩す、長引く避難生活で体調(病状)が悪化して死亡するなど、いわゆる「震災関連死」については、地震直後には停電で人工呼吸器などが停止し死亡するおそれがあるほか、数日後からは長時間座っていたり、車中泊が続くストレスによるエコノミークラス症候群などによる死亡が、そして、1か月以上あとには、慣れない環境での心や体の不調による自殺などが想定される。
※震災関連死について人数は示されていませんが、例えば避難所では、停電で空調が止まり熱中症になる、衛生環境が悪化して感染症がまん延するなど、震災関連死につながりうる状況を想定しています。
※高齢者や既往症がある人のほかにも、外国人など生活習慣や文化が異なる人たちの精神的な負担が増していくことにも注意が必要になるとしています。


➋電力・通信
◆避難所に非常用電源がない場合や、避難所に非常用の発電機があったとしても燃料が無くなってしまうとスマートフォンなどを充電できない。また、テレビやスマートフォンによる情報収集や連絡もできない状況になる。
◆1週間後頃からは計画停電の実施が及ぼす影響(携帯電話の基地局の停電でさらなる通信障害が発生するなど)も考えなくてはいけない。
◆照明や空調も使えなくなることから、体調不良者が増加(夏場などは熱中症や脱水症状が起き、冬場だとかぜを引くなど)し、体力のない高齢者や乳幼児等は、最悪の場合、死亡する可能性がある。

➌飲食・物資
◆地震発生直後は多くの人の避難が見込まれますが、停電や通信の断絶によって行政側による避難者数の把握や安否確認のほか、避難所で必要な物資を把握することが難しくなる(例:臨時に開設された避難所などは、行政に把握されないまま食料や救援物資などが届かない事態が生じる)可能性がある。
◆道路被害や渋滞等により、必要なタイミングで必要量の物資を供給することが困難になる。
◆必要とする情報や物資等が変化・多様化し、行政が避難者のニーズに対応しきれなくなる。
◆物資不足が長期化した場合、略奪や窃盗など、治安の悪化を招く可能性がある。

➍トイレ・衛生
◆避難生活中にハブラシなどの衛生用品や水が不足すれば、口の中に病原菌が発生して誤嚥性肺炎を発症し、治療が遅れると死亡する場合がある。
◆仮設トイレなどの衛生環境が急激に悪化し、特に夏場は感染症の発生につながる可能性がある。
◆衛生環境が悪化した場合に、新型コロナウイルスやインフルエンザ、ノロウイルスなどの感染症がまん延する危険性がある。

➃住み慣れた自宅等での避難生活
 自宅に大きな被害がなく、また、周囲に火災などの危険性もなく、さらに、自宅に備蓄がある程度確保できている時などは在宅避難も想定されます。
【画像】災害シナリオ➃
<都内のコンビニの飲食料はあっという間に売り切れた(東日本大震災時の様子)>

➊自宅をとりまく様相
◆タワーマンションなどの高層階で被災した場合、発災直後には長周期地震動によって、歩くことが困難になり、家具の転倒などでけが人が出るおそれがある。
◆地震の発生直後からエレベーターの停止が想定されるが、エレベーターが復旧しない状態で家庭内備蓄が枯渇した場合、自宅に留まり続けることが不可能になる。
◆緊急停止したエレベーターが数日間復旧しない場合は、中・高層階の部屋の住民が地上で支援物資を受け取るために階段を使って行き来しなければならないが、高層階と地上を階段で往復することは容易ではないため、買い物に行くことも物資を受け取ることも簡単にはできなくなるおそれがある。
◆自宅の再建や修繕をしたくとも、建設業者や職人が確保できず、すぐに行えないおそれもある。

➋電力・通信
◆停電が発生すれば空調や上下水道にも影響するため、停電・断水した不便な生活環境の自宅で在宅避難せざるを得ない者も発生する。しかし、停電が続いて空調が使用できないと、自宅でも熱中症や脱水症状になったり風邪をひいて体調を崩したりする可能性があり、ライフラインの復旧に時間がかかる場合は、生活が徐々に困難になる。
◆徐々に停電が解消されたとしても、緊急停止したエレベーターは業者による安全点検作業が完了するまで使用できないおそれがある。

➌飲食・物資
◆受水槽や給水管等の設備を直すことができず、断水が長期化する可能性がある。
◆屋上などに設置されたタンクに水を溜めて使っているマンションや住宅では、水道が止まらなくても停電によってタンクまで汲み上げることができず、水が使えなくなるおそれが出てくる。
※高層階の住宅に留まって長期間避難生活を続ける必要が出てくると想定されますが、自宅にどういった品目をどれだけ備蓄をしておくのか、在宅避難への備えが重要な要素となっています。

➍トイレ・衛生
◆停電すると水道がストップし、仮に水道の供給が続いていたとしても、配水管等が壊れるなどすれば、業者の点検・修理が行われるまで使えなくなるため、トイレも使用できなくなる。
◆家庭内備蓄をしていた携帯トイレが枯渇したり、トイレが使用できない期間が長期化した場合、在宅避難が困難になる。

➄帰宅困難者をとりまく状況
【画像】災害シナリオ➄
<都内の至る所で公衆電話に長蛇の列ができた(東日本大震災時の様子)>

◆火災の延焼やその後の地震などで、自らの安全の確保も難しくなる場合がある。
◆帰宅困難者の中には、地震による看板の落下や火災のエリアが広がるなどの「2次被害」のため、徒歩で帰宅することも難しくなる人が出るおそれがある。
◆自宅を目指して歩いても、途中でスマートフォンのバッテリーが切れるなどして家族などと連絡を取ったり安否を確認したりすることが難しくなる。
◆帰宅困難者や駅前などの滞留者などが屋外に留まることにより、道路が混雑してしまい、車両による救急・消火活動に多大な支障をきたすおそれがある。
◆東京都は帰宅困難者等のために、駅の近くなどに一時的に滞在できる施設を用意しているが、多くの人が訪れた場合、備蓄物資(特に飲み物や食べ物)が早い段階で無くなる。また、トイレの確保などができなくなり、一時的な滞在が徐々に難しくなる可能性がある。
◆コンビニやスーパーが被災して利用できなくなったり、早期に在庫が枯渇したりして、帰宅困難者が物資を入手するのも難しくなることが予想される。
◆地震発生から数日たっても、道路の寸断や交通規制などによりバスなどによる代替輸送が難しい状況が続き、勤務先や通学先、一時滞在施設での滞在が長期化するおそれもある。
※避難所や帰宅困難者のための一時滞在施設の不足も危惧される中、都内にも数多くある寺や神社、教会などの宗教施設を活用しようという取り組みが進んでいるようです。

【まとめ】
 東京都は、これまでの対策の有効性を改めて検証しながら、今回の被害想定をもとにさらに被害を軽減させるために地域防災計画の改定を進め、今年度(令和4年度)中に素案を取りまとめ、具体的な対策を盛り込んだ地域防災計画を来年度(令和5年度)の早い時期にとりまとめたいとしています。
 防災会議の中で東京都の小池知事は、
「この10年間でマンションに住む人やスマートフォンを利用する人が増え、テレワークが進展するなど、社会の環境が大きく変化している。将来にわたって持続可能な都市を築きあげるためには、変化に柔軟に対応し、先を見据えて行動しなければならず、被害想定の結果を踏まえ東京の総力を挙げて防災に取り組んでいく。
『備えよ常に』ということばは、大切なポイントだ。リスクを直視して正しくおそれ、対策を進めていくこと、私たち一人ひとりが高い防災意識を持つことが重要だ。」と話されたそうです。

 当社といたしましても、この新たな被害想定を整理・分析したうえで、明らかになった最新の課題・教訓等を取り入れた訓練等を発注者様と協同で計画・立案する、実態に即した内容を踏まえた状況付与計画等を作成するなど、訓練・研修に確実にフィードバックしていくことにより、皆様の防災・危機管理体制の整備・向上をこれからもご支援していきたいと考えております。