危機管理業務部 主任研究員
 三宅 丈也

   「災害が起こるのは日本だけではありません。」
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 何を今更、トンガ沖の海底火山噴火もあったではないか・・・など憤慨(ふんがい)なさる方も多くいらっしゃるかもしれませんが、私たちが災害、防災等と言えば意外と日本の中の災害等だけに絞って捉えてはいないでしょうか。
 これまで先人の教えシリーズでも御多分に漏れず、日本国内における災害に関して先人が遺してくれた教えについてのみ見て参りました。今回は、少し視野を拡げて世界はどうなのか、世界の災害に関する先人の教えというものがあるのか無いのか、あるとすればどの様なもので、私たちが参考にすべきなのか、などについて見ていきたいと思います。

 一番に思い浮かぶ「世界の先人の教え」はタイムラインが挙がります。ご承知のとおり、アメリカのハリケーン等に対する事前防災行動計画とも呼ぶべきもので、きっかけは2005年8月に襲い来たハリケーン・カトリーナの被害がルイジアナ州で死者1836人に達したことを受け、このタイムラインによって7年後の2012年10月のハリケーン・サンディによる被害を10分の1程度の199名に抑えることができたというもので、その後広く普及されるに至りました。

 “ニュージャージー州は、ハリケーン・サンディに係る気象予測に基づき、来襲すると予想される時刻から逆算して、クリティカルな事態に陥るまでに十分な対応を執れるよう、関係機関間で協議し、事前に準備された災害対応プログラム(タイムライン)に沿って万全の対策を行った。さらに、ニューヨーク州知事・ニュージャージー州知事・ニューヨーク市長は災害発生前の早い段階から、マスコミ等を通じて住民、事業者、関係機関に避難や応急対応の実施を求めた(ニュージャージー州知事においては、3日前より概ね1日2回のテレビ出演)。また、大統領が大災害が発生するおそれがある段階から非常事態宣言を発表することで、連邦政府機関がより効果的に連携できるように体制を整備していた。(米国ハリケーン・サンディに関する現地調査結果の中間報告より)「タイムライン」 の典型例として、 ニューヨーク地下鉄はハリケーン・サンディ(2012年)の上陸1日前に、 乗客に事前予告したうえで地下鉄の運行を停止したことを示した。 浸水被害は生じたが、 最短2 日で一部区間の運行が再開された。 また、 ニューヨーク証券取引所も上陸前に休場を決定している。ニュージャージー州では上陸の36時間前に州知事が住民に避難を呼びかけた。“
(日本防災士会資料を参照)

 わが国でも、国土交通省が水害対策の効果的な進展を目指してタイムラインの普及に努めており、その定義を、災害の発生を前提に、防災関係機関が連携して災害時に発生する状況を予め想定し共有した上で、「いつ」、「誰が」、「何をするか」に着目して、防災行動とその実施主体を時系列で整理した計画、としています。

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 台風など災害の発生が予期できるものに対しては災害発生前にタイムラインで対応しますが、地震など突発的に起きる様な災害においては、災害発生後、タイムラインによる対応により減災することが出来ます。
 特に、洪水のような災害が発生した場合、「いつ」、「何をするのか」を整理した個人の防災計画であるマイ・タイムラインをあらかじめ取り纏めておくことが望まれます。
参照;国土交通省ホームページ
 「逃げキッド」

 昨年だけ見ても、世界では自然災害が多発しました。例えば、スペイン(ヨーロッパ)やインドネシア(アジア)、及びコンゴ(アフリカ)の各地で火山噴火がありました。またアメリカではハリケーンによる洪水や竜巻被害のほか、寒波などの災害もありました。ハイチでは大きな地震もありました。さらには、オーストラリアやヨーロッパ諸国、アメリカのほか、特にシベリア(ロシア)では日本の半分に相当する面積を焼失するほどの山火事が頻発しました。シベリアの山火事は、今年に入っても発生しており、ウクライナ侵攻による兵員不足の為に鎮火作業は捗々しく無いようです。

 歴史を紐解きますと、紀元1世紀、古代ローマ都市ポンペイを襲った火山噴火・火砕流は、一つの都市を丸ごと飲み込みましたが、発掘された町からは当時の人々の在りし日の姿や生活がリアルに映し出された写真や映像をよく目にします。
 現代に戻りますと、まだ記憶に新しい2004年にスマトラ島沖で発生した史上最大級の大地震による大津波は周辺諸国に甚大な被害を与えました。この地震・津波による死者・行方不明者は20数万人ともいわれています。特に、押し寄せる津波被害の恐ろしさはテレビ映像等で全世界に配信され、そのショッキングな映像は、過去の先人の教えである石碑や文献などからはなかなか伝わりにくい、災害そのものの容赦のないまでの破壊力を私たちに強烈に刻み込んだという意味では、世界の先人の教えの一つといえるでしょう。
 この様に世界各地でも様々な災害が発生しており、その被害によっては大なり小なり政治や経済などにも影響を与えています。

 昨年開かれた国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC;Intergovernmental Panel on Climate Change)※ は、地球温暖化が人間の影響で起きていることを、初めて「疑う余地がない」と評価するなど、産業革命以降の世界の平均気温の上昇幅が今後20年以内に1.5度に達するとの科学的予測を盛り込んだ報告書を公表しました。
 ※ 科学的中立性を重視しながら気候変動に関する最新の科学的知見を評価し取りまとめた「評価
報告書」を、1990年から5〜8年ごとに公表している。2021年7月現在、195の国等が参加

 「地球温暖化」は、これまでも見てきたように世界各地で熱波や山火事、豪雨や洪水、さらには干ばつなどを頻発させるとともに、海面上昇も引き起こしつつあります。特に、水位上昇は島嶼国家の一部においては死活問題となってきています。   
 この様な中、世界各国では、自然災害、特に洪水が頻繁に襲い来る地域からの住宅移転を行政が支援するなど、防災対策を開始しています。たとえばアメリカでは、ハリケーン被害の多発する地域などから数万戸の住宅移転を既に行っていますし、オーストラリアやオランダなどでも行われていますが、ただ惜しむらくは被災があった後の移転であり、被災前の移転が重要なのかもしれません。同様なものとして、わが国では、熊本県の「土砂災害危険住宅移転促進事業」を参考にした国土交通省の「防災移転計画制度(居住誘導区域等権利設定等促進事業)」等があります。

 地震・津浪、台風・豪雨、火山噴火など、世界的に見ても確かに自然災害が多い日本ではありますが、日本の先人の教えを学ぶのは勿論のこと、視野を拡げて世界の先人の教えについても謙虚に学んでいく姿勢も今後は必要なのかもしれません。