危機管理業務部 主任研究員
松並 栄治
【音楽療法について】
音楽療法(Music therapy)とは、音楽を聞いたり演奏したりする際の生理的・心理的・社会的な効果を応用して、心身の健康の回復、向上をはかる事を目的とするもので、歌唱や演奏を行う能動的音楽療法と音楽を聴くなどの受動的音楽療法の2つに分かれるそうである。
大規模災害が発生し、避難所に避難した方々が避難生活に疲労し、将来に不安を抱きながら避難所生活を送っている際に、音楽療法により心が安らぎ、一時でも不安な気持ちを忘れられるのであればという気持ちで、音楽家等がボランテイアで音楽演奏を行ったり、地元の有線放送を避難所で放送したり、ラジオを流したりしている。
【阪神淡路大震災直後の神戸市のFMラジオ局】
災害時のラジオ放送では、被災者の生活を支える情報提供・報道が最優先され、音楽は空いた時間を埋めるだけと思われがちだが、大規模災害を経て、音楽には人の気持ちを落ち着かせ、励ます効果があることが浮き彫りになってきた。どんな音楽が求められ、必要とされるのか、ラジオ局としても、試行錯誤しながら放送に臨む。
阪神淡路大震災直後、神戸市のFMラジオ局では、レコード室にスタッフが集まっては楽曲を聴いて確認しながら放送するかどうかを決めていたそうである。
局内で議論して、「被災者の感情を逆なでしないように」「暗くならずに希望が持てるように」「別れ、死をイメージさせるものは厳禁」といった方針を決めて放送に臨み、開始1週間は、歌詞があると不要な動揺を招きかねないと判断し、楽器だけのインストルメンタル曲を選んだそうである。「静かなクラシックばかりではだめで、アップテンポの楽曲も必要」ということでスタッフの音楽知識を総動員して選曲したそうである。
歌入りは震災1週間後から流し始め、洋楽から徐々に日本語の歌を選曲、一方で、リクエスト受け付けのためのファクスには、道路の状態や店舗の営業時間など生活情報も次々と届けられていった。
ラジオ局には「冷静な情報提供と静かな音楽」を評価する一方、「抑えないで普通にやってほしい」という要望が寄せられるようになっていった。
震災約1カ月後の2月14日のバレンタインデー特別番組が一つの区切りになったそうである。
震災発生から1カ月もたたないのに浮かれているように思われないかとの懸念はあったそうであるが、放送後、苦情は1件もなく、寄せられたのは、元気になった、励まされたという声ばかりで「ポップスの大部分はラブソング。被災地でも、それを聴けるようになっていた」そうである。
【まとめ】
被災者の心を安らげ、復興の一助として音楽を活用することは有効であり、昨今のコロナ禍で外出を自粛して引き籠り状態になっている人々へも、【コロナに負けるな】ということで配信型のコンサートやweb参加型の楽曲配信等、音楽が復興や精神の安定に大きく貢献していると思料される。