危機管理業務部 主任研究員
松並 栄治
1 北極域の現状
北極域の夏季海氷面積は、過去35年で約3分の2となり、北極の気温上昇は地球全体の2〜3倍で進展していると言われる。
そのような北極域の状況は、我が国の気象にも影響があり、北極域の海氷減少により、北極域の低気圧が北にずれ、大陸側はシベリア高気圧が拡大し、我が国に寒い冬と豪雪をもたらすようになった。
また、気象観測の観点では、北極域の気象観測により、我が国の台風の進路予測の精度が向上するものと言われている。しかしながら、我が国は北極海海氷域を観測研究することが可能な砕氷船を有していないのが現状であり、北極域は我が国の観測の空白域となっている。
急速な温暖化が進む中、観測の空白域である北極域の観測研究を進め、我が国を含めた世界の気象・気候変動予測を高度化するとともに、資源活用を含めた北極海航路の持続可能な利活用に貢献するため、北極域研究船を建造することとなった。
2 北極域研究船について
北極域研究船は、全長128メートル、幅23メートル。平坦1年氷1.2mの連続砕氷能力(南極観測船「しらせ」は、氷厚約1.5mの平坦氷の連続砕氷能力)があり、建造費は335億円で、2126年度完成予定となっている。
(1)主な観測活動のイメージ
ア 気象レーダー等による降雨(降雪)観測
イ ドローン等による海氷観測
ウ 係留系(海のなかに重しとともに沈められ、一年単位で放置される観測機器の繋がれた係留具のこと)による海中定点観測
エ 音波探査による海底の地形や生物資源の調査
オ ROV(遠隔操作により水中に潜行できる潜水探査機)・AUV(機器本体が自律的に状況を判断して水中を航行できるロボット)による海底探査
カ 気球による気象・大気観測
(2)期待成果
ア 台風・豪雨等異常気象の予測精度の向上
イ 北極域の国際研究プラットフォームの構築
ウ 北極海航路に係る環境整備
エ 国際的な枠組・ルール構築への貢献
オ 我が国の氷海船舶技術の高度化
カ 人材育成
3 その他の活用策について
政府は、大規模災害が頻発し、新型コロナウイルスの感染拡大が続いていることを踏まえ、災害対応や将来の感染症流行時にも活用する方針を示し、具体的には、関係省庁や自治体の要請に基づき、船員用の医務室を利用して被災者らの診療にあたるほか、患者や避難者のための65〜75人分の宿泊部屋の提供、船内の風呂やシャワーを1日最大960人分、水は最大75万リットルの提供、携帯電話などの充電用電源の提供が考えられている。
また、治療室や検査室などとして使える医療用コンテナユニットを被災地に運び、船上ヘリポートを活用して緊急物資の輸送や人員搬送などにも役立てることが考えられている。
完成予想図