危機管理業務部 主任研究員
 三宅 丈也


 唐突ですが、防災の用語として避難場所とか避難所というものがありますがこの違いをしっかりと説明することができるでしょうか。津波や地震、火災などから命を守るために逃げ込む場所が「避難場所」であり、命が助かった後に生活をするために避難するのが「避難所」です。前者は、地域で指定されている公園や小・中学校、津波タワーなどがあります。しかし、災害の被害が大きくあるいは長期化する場合などは、例えば公園や津波タワーでは雨露を凌ぐことも出来ませんから体育館や公共施設などに開設される避難所に移ったりします。ただ、必ずしも避難場所に避難したのち避難所へというわけではなく、避難場所=避難所の場合もあります。
 東日本大震災の頃までは、避難場所と避難所の区別は必ずしも明確ではありませんでした。さらに避難場所も災害の種類毎に区分されてもいませんでした。
 このため、「地震が発生すれば○○公園に逃げる!」という固定概念がすり込まれてしまい、洪水や津波に飲まれる虞(おそれ)のある場所にある避難場所へ逃げ込んでしまい命を落とすという被害が発生しました。こうした反省から「逃げて生き延びるのが避難場所」「生活する場所は避難所」という区別をするに至りました。

 生活基盤となる避難所ですが、心身の負担が大きく、またコロナ禍における感染リスクが潜在する避難所生活という選択に対して、最近は「分散避難」が着目されています。特に、高齢者や障害を持った方など避難行動要支援者のいる家庭では、他人目を気にせず居られるという面などから有力な選択肢となっています。具体的には次図のように、避難所の他に家やマンションなどの在宅避難や車中泊、知人・親戚宅やホテル等の宿泊施設での避難などがあります。
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 この分散避難ですが、車中泊、在宅避難については、これまでの様々な災害における避難生活の中において、避難行動要支援者のいる家庭やペットを飼う家庭など、特にトイレ問題から体に不調を来(きた)すことを避けるためなど、結果的にやむを得ず選択したりした事例もあるのでしょう。ただ車中泊などはエコノミー症候群等に留意する必要があります。また、ホテル等宿泊施設における避難は帰宅困難者がやむ無く使い始めたり、コロナ禍で隔離の為に利用したりなど、必要に迫られて始まったものがベースとも考えられます。

 分散避難、特に在宅避難は、生起した災害の態様によっては、指定避難所よりも有効な場合もあります。たとえば地震被害による大きな損傷が自宅にない場合や電気・ガス・水道などのインフラが担保されている場合などや、大雨や洪水などの災害でマンションであれば在宅避難が有力な選択肢となります。過去には、大雨での避難途上に濁流に流されてしまうなどの不幸な事例も発生しています。

 ただし、在宅避難におけるデメリットというものをしっかりと理解し対策しておくことが重要となります。例えば、避難所に比較してどうしても災害等の情報が得にくいこと、支援物資が得にくいこと、さらに避難者が病気になった場合などの応急対応などがあります。こういうデメリットの理解と対策、対応をしっかりと常日頃から立てておくことが重要になります。また、電気・水道・ガスなどのインフラの確保やトイレの問題なども非常に大切ですので、日頃から地域社会と一体となって準備しておくことをお勧めします。

 平成という時代は災害の多かった時代といわれますが、令和に入ってすぐの令和元年度東日本台風等による被害は、同年10月に発生した台風19号及びその後の低気圧等による大雨も含めた被害ですが、関東一帯で死者・行方不明者が100名を超えたほか、9万棟を超える住家被害が発生しました。この災害からは様々な課題が浮き彫りになりましたが、特に「全員避難」や「命を守る最善の行動」の趣旨が住民に伝わっていないということが明らかになりました。約4割の人が危険のない場所に居るにも拘わらず避難をしたこと。また、「全員避難」とは全ての人ということでなく、「危険な場所にいる全員」という意味であるということを誤解していました。つまり、危険がない自宅等に居るにも拘わらず全員避難という言葉に動かされてわざわざ危険に飛び込んでいったという事例が多く見られたということです。
 私たちは、「避難の為の避難」に陥るのではなく、危険な場所に居る場合は避難をする、今居る場所が当該災害では危険がないのであれば、そこに居続けること、例えば在宅避難も「命を守る最善の行動」なのだ、という場合も多くあるということに気付かされます。
 国は、「新たな避難情報に関するポスター・チラシ(多言語対応版)」や「避難行動判定フロー」などを作成していますのでご紹介します。
 参考; 内閣府ホームページ
   新たな避難情報に関するポスター・チラシ(多言語対応版)

 最後に、私事で恐縮ですが、私は現在千葉の中層マンションに居住しています。
 地域のハザードマップや避難場所を把握し、日頃から散策を兼ねて地域周辺をどういう災害があるか、どういう危険がありそうかなどまち歩き的に観察したりしています。さらに歴史好きという趣味もあってか、古い地図を見たり、地名や地域の古い歴史も調べたりしています。
 新基準、耐震工事の追加施工をされたマンションの立地は標高25mの自然丘陵地の台上5階で、津波や大きな地震動、加えて大雨による洪水に対しても耐えられるものと考えています。また土砂崩れ危険地域からも外れています。こういうベースから、物事に絶対というものは決してありませんが、何か災害に直面した場合は、我が家では基本として在宅避難を採ろうと話し合っています。
 皆様もご家族でお話しをしてみてはいかがでしょうか。