危機管理業務部 主任研究員
 井手 正


 令和3年度以降、内閣官房と都道府県等が主催する国民保護重点訓練は、武力攻撃予測事態を想定した都道府県を跨る広域かつ長期的避難を主体とした訓練にシフトしました。ここ2年、この訓練をお手伝いさせていただく機会を得ましたので、私見を記述しました。

1 多数避難者の避難状況の把握
  令和3年度は、高知県民約68万人を愛媛県・山口県へ避難させるオペレーションで、令和4年度は、大阪府岸和田市民約8万4千人及び泉佐野市民約4万4千人を兵庫県及び京都府へ避難させるというオペレーションで国重点訓練が実施されました。
  両訓練とも、避難者の避難状況把握のため、要避難地域を学校区等でブロック区分し、各ブロック、住民確認所を設定し、受付・人定確認し、チャーターバス等で送り出すという手順で実施されました。その際、多数の避難者の避難状況把握を迅速化するため、内閣官房で避難者情報プログラム(仮称)を試作品として作成し、訓練で検証されました。これは、避難者でスマホを保有している方を対象に、QRコードを読み込んでもらうことで人定確認を簡素化し、インターネットを介して避難状況をリアルタイムで把握していくというものです。これは、冒頭紹介した多数避難者を迅速に避難させる必要がある場合、受付時間を簡素化する有効な手段と思います。
  一方、行政として、住民確認所という関所を避難対象住民全員に通過させ、全避難者を人定した上で避難させることが果たして現実的かどうか、疑問に感じました。
  要避難地域に所在する市役所職員の立場からすると、確実に人定した上で避難させることは必須との考え方でこの形態の訓練となり、多数避難者の人定確認をするための住民確認所の開設、国民保護事案における広域避難に関する一考察_画像1職員の確保とその準備等の業務量に鑑み、住民確認所での避難手続きを経て避難していただくのは、自力避難ができない方に絞るのも一案ではないかと感じました。従って、要避難者のうち、乗用車や公共交通機関での自主避難が可能な方については、それを優先し、事前に避難先、避難手段、避難時期を通知して住民確認所での人定確認は省略し、避難先到着後、何らかの手段で行政に連絡してもらい、避難状況を把握していくのが現実的ではないかと感じました。避難状況把握には、かなりの時間差が生ずるとは思いますが、避難の迅速性と行政の業務の効率性を優先する時は、それも選択肢になるのではないかと思います。


住民確認所での受付(R4大阪)


2 要配慮者の避難
  訓練の重点的な取り組みの一つに、要配慮者、特に、医療機関入院者、福祉介護施設入所者及び在宅患者の避難訓練も実施されました。
  これらの方の避難は、各施設管理者の責任で実施することが基本ですが、これは行政の介入なくしてできることではありません。国民保護事案における広域避難に関する一考察_画像2国主導で、避難元、避難先自治体との連接の枠組みを決め、施設・医療・福祉等関係者間での綿密な調整の下、最終的には、施設ごと個別に避難実施要領を確立することで可能となります。避難元施設から避難先施設まで、患者等の状況に応じ、例えば、酸素吸引器やペースメーカーが必要な患者の療養に必要な器材の確保、透析を要する方、妊婦の避難先での対応等、特別な救援措置まで含めたマッチング調整を行うことが必要であり、現実的に容易でないことは想像に難くなく、今後の訓練でも大きな課題と認識されました。


要介護者の搬送(R4大阪)

3 おわりに
  国民保護訓練における本取り組みは、国としても緒についたところですが、仮に、実際のオペレーションを行うことになった場合、上記に述べた避難状況の把握や要配慮者対応のみならず、避難元、避難先住民等への広報、長期避難に備えた施設の確保と救援措置、残留者対応等等、課題となることは際限がないものと思われます。
  今後の訓練においても、各分野で、何がどこまでできるのか、どこまで実施すべきかを追及し、有事への備えを構築していくことが重要と思う次第です。