危機管理業務部 主任研究員
 三宅 丈也


 災害が起きた時の対応等をシミュレーションする防災訓練の必要性については、多くの方が異論をお持ちでないものと考えますが、言うは易く行うは難(かた)し、です。
 仕事で各都道府県や市町村の様々な防災訓練などの支援をさせていただいていますが、多くの場所で住民の訓練参加に苦労されています。例えば、そもそも参加者が少ない、男性ばかりだ、声掛けしていても参加者が当日減少する、高齢者の参加に偏り若い方の参加が少ないため土日の訓練を企画したがなかなか改善されない、など防災訓練への住民参加は思う様にいかないのが現状の様です。

 防災訓練の参加傾向として、自主防災組織の会長、副会長や役員などの参加のみという場合も散見されます。そのためか、男性の参加が多く、さらに高齢の方が多いという偏りがしばしばみられます。若い世代の参加や女性の参加を求める声が多くみられますが、なかなか改善には至らない場合がほとんどです。

 経験上、防災訓練に参加する住民の特色ある傾向の一つとして、女性が防災訓練に参加する多くの場合、その家庭内の配偶者又はパートナーや子供たちも一緒に参加したり、また座学やワークショップなどにおいては友達?か知人(多くは女性)の参加傾向がかなりの確率でみられます。
 現代は家族単位での行動が多くみられることから、一般的に家庭内の中心的存在である女性の積極的な参加による波及効果として、配偶者又はパートナーや子供たち、あるいは友達?、知人(多くは女性)の防災訓練等への同伴的参加が期待できるものと考えられます。

 話は変わりますが、実災害時の避難所での被災者の生活や避難所運営活動などを見ますと、概して大人たちは避難や避難所生活などで疲労困憊した上、今後の仕事や生活の心配などによって避難所における日常の行動が緩慢になる傾向がみられます。職員や運営委員会のメンバーなどが声掛けしたり、何か連絡したり、避難所運営の協力などをお願いしても、多くの場合、反応は芳しくありません。面倒だとかではなく、また身体の疲労というよりも精神的な徒労感が大きいのでしょう。しかしながら、子供、特に小・中学生の元気な挨拶・行動、特に積極的な運営支援活動(ex.避難所の各種情報を纏めた新聞等の作成・掲示、一日のスケジュール表や情報の掲示・伝達、飲食物などの配給支援など)によって、周りの大人たちの多くが癒されるとともに感化(かんか)され身体を動かさざるを得なくなり、それによってどんどん前向きな行動が取れるようになっていくという好事例もあります。
 この様に、女性や子供たち(特に小・中学生)の防災訓練、活動への関心、参画意識を高め訓練等への積極的な参加を促すことが出来れば、地域住民の防災訓練等への参加に係る各種の悩みも大きく改善できるものと思います。
 その具体的な方法として、先ずは意識改革と広報からと考えます。防災訓練の実施案内などで訓練対象をただ単に「住民」とするのではなく、防災の継承者として子供たち(小・中学生)をしっかりと位置付けて防災訓練の主対象者として捉えること、更には「お父さん、お母さんに『防災』を教えよう」とか「地域を守るのは君たちだ」などの標語も良いかもしれません。また地域の消防や学校とも連携して、防災に関する教育、訓練などを積極的に導入して貰ったり、地域の防災訓練に学校の防災教育の一環として参加して貰うことも有効でしょう。

 次に、防災訓練の魅力化があります。
 せっかく防災訓練に参加しても毎回同じ内容や要領であったり、訓練前後の挨拶や難しい説明、そして長い講評なども敬遠されがちな理由の一つかもしれません。
 実習的要素の取り入れやイベント式に盛り上げるというモノもあります。担架搬送、特に応急担架の作成法などは意外と知られていません。他にも折りたたみの車いすの開閉の実習や、実際に車いすを押したことがある人も意外と少ないものです。こういう体験型の防災訓練や地区のイベントなどでの防災グッズの展示・体験なども興味を持ち易いものです。

 例えば、主対象者が女性、小・中学生であれば、身近なものを利用した防災グッズ(ex.段ボールトイレ、ビニール袋を使った防寒着)の作成などの他、地震体験車や地域の防災センター等における地震の揺れ体験などを取り入れることも参加者の興味・関心を呼べます。
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 また最近は、VRやARといったゲーム感覚に近い防災訓練も徐々に広がっています。VR(Virtual Reality=仮想現実)とは、人の視覚、聴覚、触覚などを刺激し、自分がCGで作られた仮想世界にいるかのような感覚を体験できる技術であり、AR(Augmented Reality=拡張現実)は、スマホなどを使ってCGなどで作った仮想のモノを現実世界に映し出す(拡張)ことができる技術です。例えば、ARを使った防災訓練では、自分がいま居る場所で煙が充満したり、水が溢れ出たり腰まで流水に浸かった中で瓦礫が押し流されてくる様子などを「疑似体験」することができ、実際の災害のイメージを持ったり臨場感を得られたりします。ゲーム感覚で出来ることから今後広く普及していくものと思われます。三宅25_画像2
 例えば、東京消防庁の「VR防災体験車」は、“最新のバーチャルリアリティ技術を活用した
“これまでにない臨場感あふれる防災訓練”を「お届けする」専用の大型車両です。360°の立体映像と揺れ・風圧・熱などの演出による、地震・火災・風水害の疑似体験をして、いざという時のために、命を守る力を身につけましょう!”
 (東京消防庁HPから引用)と紹介されており、地震編、火災編、及び風水害編を疑似体験(水しぶき、熱、においなどの効果が発生したり、急に座席が動く等の衝撃)などが出来ます。興味のある方は是非、東京消防庁ホームページをご確認ください。

 参加者数が少ない、若い人が参加しないなど、防災訓練が抱える悩みは尽きないものですが、先ずは、女性と子供に興味・関心を持って貰い防災訓練への参加を促進し、そこからドンドンと参加する仲間を増やすとともに、時代の変化を取り入れながら訓練そのものの魅力化を図っていくということを試してみてはいかがでしょうか。