危機管理業務部 主任研究員
 井手 正


 私は、令和6年3月、神戸市で行われた国民保護共同実動訓練をご支援する機会に恵まれた際、被害者役としてボランティア参加された障がい者や外国人の方々の生の声(アンケートによる)を聴く機会を得ることができ、参考になることも多々ありましたので、その一端を紹介させていただきます。
 国民保護事案、自然災害における障がい者等要配慮者の方への対策は、過去、我々が経験した様々な発災において顕在化した課題であり、日頃、障がい者福祉等に携わる方にとっては日常的に行われていることが、障がい者対応の知識や経験がない方には、困惑することも多いと感じ、寄稿した次第です。

1 訓練の概要
  本訓練は、神戸総合運動公園ユニバー記念競技場において、令和6年5月17日開催予定の世界パラ陸上競技大会でのテロ対策として、競技場観客席で、化学剤が散布され、負傷者が発生するという想定で行われました。
  これまで自治体等で行われている同種訓練では、被害者役を実設する際、要配慮者である障がい者や外国人は、健常者のエキストラにその役を演じてもらうのが常でしたが、本訓練では、福祉施設等から実障がい者8名、大学留学中の実外国人等5名の方々の参加を得て、訓練終了後のアンケートによりその方々のご意見を聞くことができました。
その一部を紹介し、所見等を付記します。

2 障がい者等のアンケート結果と所見等
(1)Q1 訓練に参加しようと思った理由
  ア 主要回答内容
   〇訓練をすることでいろんな体験、イメージが作れると思った。
   〇このような訓練にはどんどん参加したいと思っているため。
   〇訓練を通して、要支援者の立場でどのような配慮が必要かを考えてみたいと思った。
   〇作業所での避難訓練に生かせると思い参加した。
   〇参加したのは、「当事者」参加というのが一番の理由。
   〇日本で暮らす外国人が増えており、外国人に対する対応を検討するという趣旨に賛同した。
  イ 所見
    皆さん、自主参加で、災害時の備えという点で前向きな考え方をお持ちであり、障がい者だから助けてもらうという受動的な考え方はなく、自分自身で他の障がい者を支援できることはないか、支援してくれる人へはどのような配慮が必要かという他者への配慮の気持ちが強いと感じた。
    また、日本で暮らす外国人の方には、外国人同士の連帯感と不安感が混在していると感じた。
(2)Q2 訓練で困ったことや良かったこと
  ア 視覚障がい者
   ≪回答内容≫井手05画像1
   〇視覚障害者に「あっちに・・・」「そっちに…」というような指示語では方向がわからないが、多用されていた。これでは視覚障害者は避難できない。
   〇「アレ、コレ、ココ、ソコ」の言葉は理解できないので、わかりやすい言葉で説明して欲しい。
   〇救護のテント内で、様々な立場の方が聞き取りにきたが、見えないため、誰が誰に話しかけているのかが分かりにくい時があった。私は一番右に居たので、何となく分かったが、両隣りに人が居た場合、分かりずらい状況になると思う。
   〇トリアージカードを右腕にかけてくれる時、何を右腕にかけるのかよくわからず、右に白杖を持ったまま、ぼーっとして戸惑った。何回か右腕にかけさせてくださいと言われ、ようやく何かをかけてもらうんだと思って、白杖を右腕から外し、腕を差しだすことができた。そしたら、カードをかけてくれ、こういうことかと思った次第。見えないと難しいなと思った。
   ≪視覚障がい者の方への対応の参考≫
   〇視覚障害者に話しかけるとき、手などに、2〜3回タッチして、あなたに今から話しかけますよ。といったサインが必要。また、できるだけ正面から話かけると、より分かりやすくなる。
   〇トリアージタグを手につける際、視覚障がい者に対しては、「これを手につけます。」では、何を着けるのかわからない。例えば、「トリアージの黄色い札を手首につけます。」と、具体的な内容を言葉で説明することが必要。視覚障がい者の方の耳は目の機能も兼ねており、言葉を映像化して自分の状態を把握する。
  イ 聴覚障がい者
   ≪回答内容≫井手05画像2
   〇消防隊員の方が、1人マスクを外してコミュニケーションを取ったのがよかった。口元が見えると少しは何を言っているかがわかる。
   〇発災後、音声が聞こえず、場内の状況がつかめなかった。
   〇音声以外の情報があればよい、例えば文字の情報など。
   ≪聴覚障がい者の方への対応の参考≫
   〇見た目は普通の健康な人と変わらないが、周囲で何が起きたのか、音声では把握できない。聴覚障がい者は、自分で聴覚障がいであることを伝え、周囲の理解を得ることも必要
   〇コミュニケーションの方法として、みぶり・てぶり、簡単な手話、筆談、スマホのアプリ使用が望ましい。
   〇対応する時は、正面から顔をよくみながら、ゆっくり、はっきり話す。
   〇イベント会場では、電光掲示板等にリアルタイムでの字幕と手話の映像、避難経路等の重要情報が表示される仕組みや、警備員・救助機関等が活動する場合は、避難誘導のためのプラカード、ホワイトボード等を準備することが望ましい。
   〇自治体や福祉施設が備えたコミュニケーション支援ボードの活用が望ましい。
  ウ 外国人
   ≪回答内容≫井手05画像3
   〇当方は日本語があまり分からず、医者が、喉にチューブを入れますなど、熱心に、英語でコミュニケーションを取ろうとし、その熱意が伝わったが、専門用語を聞くと難しい単語が多く、ネイティブスピーカーしか伝わらない可能性がある。
   ≪対応要領の参考≫
   〇外国人とは、「言語の壁」をどう克服するかが重要な課題
   〇専門的な難しい表現より、シンプルな英語(片言でもOK)やジェスチャーの方がいい場合がある。
   〇スマホアプリ等ツールの使用が望ましい。
   〇日本の価値観、文化の違いの理解、遠回しな言い方はしない。
(3)Q3 その他について気付いたこと
   ≪回答内容≫
   〇今回、薬品が撒かれた想定の避難訓練だったが、ガイドヘルパーが重症で障害者が軽傷等の場合はどうするのだろうかと思った。
   ≪所見≫
   〇障がい者が外出する際、障がい者の移動をサポートするガイドヘルパー(正式名称:移動介護従事者)が同行するのが原則であるが、ガイドヘルパーによる支援体制は決して十分ではないことから、健常者が可能な範囲で支援できる体制を構築することが望まれる。

3 終わりに
  今回、障がい者等の方々の生の声を聴き、一番強く感じたことは、障がい者であるがゆえに、より真剣に社会と向き合っているということ。
  発災時の要配慮者対策に完璧を求めることは困難と思うが、身近にできる些細な努力を積み上げ、少しでも向上させることが肝要かと思う。