危機管理業務部 主任研究員
 米山 則行


 私は、家から会社まで私鉄、JR、地下鉄を乗り継いで片道1時間以上をかけて毎日、通勤していますが、通勤の途中で稀にお腹に違和感を覚え、「トイレに行かなくて大丈夫だろうか?」と考える時もありますが、「大丈夫だろう」と何の根拠もなく判断し電車に乗ってしまい、そうした時に限って電車が遅れたりして苦悶に満ちた悲惨な時間を過ごすことになります。皆さんもそのような経験はありませんか?
満員電車画像

 皆さんは、「認知バイアス」という言葉を聞いたことがありますか。
 「認知バイアス」とは、物事を判断する時に直感やこれまでの経験に基づく先入観によって、合理性を欠いた判断をしてしまう心理現象です。
 実は、この「認知バイアス」というものを日頃から認識しておくことにより、災害や事件・事故などの緊急事態に遭遇して自らの行動を判断する際、誤った判断を少なくすることができます。
 心理学で取り上げられる認知バイアスには、多くの種類がありますが、以下、その中のいくつかについて紹介します。

1 認知バイアスの種類
(1)ハロー効果(光背効果、後光効果)
   ある特定のものに対する評価や先入観(好意、嫌悪、崇敬等)が、まったく因果関係を持たない異なるものの評価へ影響を与えること。タレントのCM効果など。
(2)バンドワゴン効果
   多くの人が選択している判断は、個人や少数の判断よりも正しいと思い込んでしまうこと。
(3)コンコルド効果(埋没費用効果)
   ある対象への金銭的・精神的・時間的投資をし続けることが損失につながると分かっているにもかかわらず、それまでの投資を惜しみ、投資がやめられない状態となること。超音速旅客機コンコルドの商業的失敗に由来する。
(4)正常性バイアス(正常化の偏見)
   人が緊急事態や異常な事態に直面した時に、自動的に正常な範囲内の事態、「自分は大丈夫」だと認識し楽観視してしまうこと。津波や火災からの避難、自動車の運転時や振り込め詐欺への対応などで顕著となる。
(5)対応バイアス(基本的帰属の錯誤)
   個人または集団の行動を判断するにあたって、その種類や性質的な面を重視し過ぎて、新たに得られた情報や把握できた状況を軽視すること。
(6)感情バイアス
   心地よい感覚をもたらす肯定的な感情効果のあることを信じ、好ましくないことや精神的苦痛を与えるような厳しい現実を受け入れたがらないこと。
(7)確証バイアス(追認バイアス)
   自分の主張を通したい時に、自分の考えや仮説に合う都合のいい情報や自分の思い込みを正当化する情報を無意識に集めること。一方、反対などの異なる意見に対しては、抵抗感から無意識に軽視・排除しようとする。
(8)内集団バイアス
   他の集団と比較して、自分が所属している集団や属している人が優れている、正しいと無意識に位置付けてしまうこと。
(9)後知恵バイアス
   結果が出た後に「そのような結果になることは分かっていた。」と、あたかも最初から結果を知っていたかのように、結果と自分の考えを一致させようとすること。
(10)生存バイアス
   何らかの選択過程や生存競争を通過した人・物・事のみを基準として全体の判断を行い、その結果に到達しなかった人・物・事が見えなくなること。
(11)自己奉仕バイアス
   成功したことは自分の能力(内的要因)のおかげ、失敗は自分にはどうにもできない要因(外的要因)によるものと考えてしまうこと。
(12)錯誤相関
   関連性がない、あるいは少ない情報やデータに関連性が十分あると思い込んでしまい、少数意見や稀な情報などを間違って関連付けて過大評価すること。
(13)係留(アンカリング)
   先行する何らかの情報(アンカー)によって後の情報の判断や評価が歪められ、判断した結果がアンカーに近づく傾向を示すこと。

2 認知バイアスの影響を軽減する方法
認知バイアスは、人間の脳の情報処理を円滑にするとともにメンタル面の安定を保つために起きると言われています。このため、誰にでも日頃から無意識に起っている現象であり、完全に排除することはできません。しかしながら、以下の点に気を付けていれば、その影響を軽減することができます。
   認知バイアスの種類や特性を認識しておくこと。
 ◆“獣任靴茲Δ箸垢觜堝阿量榲を踏まえ、客観的に考えること。
  適切かどうか判断するための基準となる量的・時間的・空間的な尺度を持つこと。
 ぁ‥面している状況の全体像や各種情報の因果関係を推察・分析すること。

3 交通事故の原因となり得る特異な視覚現象
  結びに、認知バイアスに似た自動車の運転に影響のある視覚現象を紹介します。自動車を運転される方は、安全運行の参考にしてください。
自動車運転画像

(1)コリジョンコース現象
   2つの車両や航空機同士が、そのまま進み続ければ衝突することになる一点に向かって等速直線運動をしていると、視界が良好な場合であってもお互いを早期に視認することが著しく困難となる現象
(2)覚低走行
   走行中の視点の変化が少なくなることで注意力が低下した状態になること。体調は正常で、眠気等の自覚症状はなく、眼を開けて前方を注視しているが、注意力や集中力が居眠り運転状態の程度まで低下した状態となる現象
(3)側方指向(曲方指向)
   カーブを曲がる際、運転席からカーブを見ると左カーブでは左側車線が広く、右カーブでは右側車線が広く見えるという目の錯覚が起き、無意識のうちに広く見える方へ寄っていく現象
(4)視覚吸引効果
   人間には、無意識に目線の方へ近づこうとする性質があり、特に人間は危険なものを注視すると、そのものから目が離せなくなり、凝視したものに吸い込まれるように近寄ろうとしてしまう現象
(5)追従静止視界
   前車に追従しながら、しばらく同じ速度で走っていると、まるで前車と自車が止まっている、あるいは低速度で走っているような錯覚に陥ること。
(6)意識したものしか見えなくなる現象(意識の門)
   以下の現象等の単独または複合的な効果により発生するものと考えられます。
 ◇ 情報過多シンドローム
   多くの情報を処理できずに脳がオーバーフローを起こした状態
 ◇ 視覚マスキング現象
   ある視覚刺激と時間的に近接させて別の刺激を同じ空間位置、あるいはその近傍に呈示すると、呈示しない場合に比べて最初の刺激の知覚が妨害される現象
 ◇ カクテルパーティ効果
   多くの情報の中から、自分が必要としている情報や重要な情報を無意識に選択する脳の働き
 ◇ 視覚バイアス
   視覚情報と視覚以外からの知覚情報がほぼ同時に提示されるときに,視覚情報を優先してしまう特性
 ◇ 錯視
   視覚における錯覚のこと。形・大きさ・長さ・色・方向などが、ある条件や要因のために実際とは違ったものとして知覚される現象