危機管理業務部 主任研究員
三宅 丈也
「むかし〜 むかし〜」の軽快なフレーズ・リズムで有名な日本昔話は、「おじいさんは山へしばかりに・・・」と続きますね。この「しばかり」ですが芝（草）刈りではなく、小枝など焚き付けに使う柴を刈る（集める）という意味合いで、山や森に焚き木となる枯れ木を拾いに行っていたのです。そして、縄文の昔、煮炊きなどが既に行われていたことは出土した土器などによって明らかにされていますが、昔から煮炊きなどに使うための火の燃料は基本的に「木」です。また、住居である家の材料にも縄文の頃から「木」が使用されています。縄文というと今から１万年以上も昔から始まっていますから、現代までに至る間、人々は日々、山や森に入り込んで木を拾ったり伐ったりしてきた訳ですが、よく山や森の樹木が無くなって禿山（はげやま）や草原にならなかったものです。考えてみたら不思議なことですね。
これは、柴や樹木はゴミなどではなく大切な燃料や材料、共有の財産である、と人々（先人）が考えていたからでしょう。柴を拾ったり下枝を伐れば、太陽の日差しが隈なく届くようになって樹木はよく育ちますし、木を伐れば代わりに植林するという循環の考え方がおのずと備わっていたのでしょう。昔の人々（先人）はすごいですね。
実際、近隣諸国を見てみますと禿山や草原、砂漠が多く見られます。原因は、そもそも地質自体に起因する岩肌の山が多かったという事や、焼畑農業などの生活習慣のほか、生活物資・燃料としての木材の伐り出しが考えられます。その他の主な理由としては、四面環海の我が国と異なり、自然の国境（海や大河、峻険な山など）が少ない他国では昔から他民族どうしの争いが絶えず、城壁用の煉瓦（レンガ）や武器としての鉄器が強く求められていました。
そして、煉瓦や製鉄には高温に熱する火が必須であり、燃料となる多数の「木」が必要となります。この燃料となる樹木は山や森に豊富にありますから、どんどんと伐り出しますが、代わりに植林しなければ、必然、禿山や草原、砂漠へとなってしまいます。
山や森に雨が降って、小さな一筋の流れが小川へ、やがて大河となって、湖や海へ注ぎ込む、大自然の営みの一つですね。山や森の豊かな栄養分を含んだ土壌が湖や海へと流れ、それによって魚介が育まれ、陸生動物や人々の「生」の主な源の一つになっています。
ですが、伐った樹木の代わりに新たに植林しなければ、やがては禿山や草原になってしまうのも道理です。そして、そこへ大風や豪雨が襲いますと、山や森の保水機能が損なわれていますので、土砂崩れや土石流が発生しやすくなりますし、大量の雨水がそのまま土砂とともに川を濁流となって流れ下り、周辺の町々を巻き込んだ大水害を起こしやすくしてしまいます。
今後も「先人の教え」を守って、山や森から樹木を伐り出したら植林するという自然との共生を続けて自然の循環を守り、緑豊かな山や森、そして豊かな川、湖、そして海を後世に伝えていきたいですね。
山や森の保全活動である植林から少し話が変わってしまうかもしれませんが、樹を植えるという点が共通しますので、是非ご紹介したいことがあります。
東日本大震災（2011年（平成23年）3月11日）による被害の多くは地震そのものより津波によるものが多く、当然のこと津波被害は太平洋側沿岸部に集中しました。その中で、岩手県陸前�眦鳥圓把吐箸�到達したラインに桜を植樹して、震災の記憶を毎年咲く桜並木のラインで伝承していこうというＮＰＯ法人「桜ライン311」の活動があります。同法人代表の方の陸前�眦鳥圓砲△觴族閥瓩�には、昭和三陸地震の津波到達地点を表す石碑があったそうですが、苔（こけ）むしたまま放置されていました。その活動のきっかけは、津波では避難の心がけが重要で、せっかく先人が残してくれたもの（前述の石碑）を活かせなかった、震災の記憶を如何に伝承すべきか、との思いからだったのでしょう。
その活動は、170ｋｍに及ぶ津波到達地域に10ｍ間隔で桜を植樹して桜並木のラインを作ろうという壮大な計画であり、2023年12月末現在で約13％の2200本（所要１万７千本）の植樹を終えているそうです。
詳しくは、公式ホームページ「桜ライン311」をご覧いただければと思います。
以前、当ブログ「先人の教え� 悗海海茲蟆爾暴擦爐福戞狙蘿�の昔から、千年後の子孫へ〜」（2019年２月25日）で、『過去に何度も津波被害を受け、数多くの津波石碑等で先人から津波に対する教訓・警告を受けてきている東北地方太平洋沿岸部の人々でさえ、永い年月を経る中、漁業、農業そして生活の便を考慮するうちに津波石碑等のある高地から徐々に低地へと生活の基盤を移していったのです。
人は、災害の記憶が新しいうちは「安全」を求める意識・行動が強く出ていますが、代を重ねることにより少しずつその記憶は薄れ「住みやすさ」を求める意識・行動が徐々に強くなってくるのは自然の理ともいえます。
よく「災害は忘れたころにやってくる」といわれますが、自然災害というものは我々人間を「試すもの」であり、自らの「忘却との戦い」ともいえます。』と紹介しました。
まさに、今を生きる先人の教え（桜ライン311の活動）である、如何に震災の記憶を伝承していくのか、が私たち一人一人にも求められているのかもしれません。
