危機管理業務部 主任研究員
三宅 丈也
皆さんは、日本の政治家で最も尊敬する人物は誰でしょうか。
えっ、誰も居ませんか。
・・・
同様の質問を外国人、それもアメリカ大統領ケネディの就任時に日本人新聞記者が質問しました。大統領の回答を聴いた日本人記者たちは一様に「•••(誰だ？)」と沈黙してしまいました。答えは上杉鷹山（ようざん）です。ご存知の方も多いことでしょう。
上杉鷹山は、戦国時代最強の武将の一人に挙げられる上杉謙信が遺した米沢藩の９代目藩主です。破産寸前の米沢藩に幼くして他家から養子に入り若干17才で藩主となりました。上杉家は謙信の養子景勝の頃には最大120万石もありましたが関ヶ原の戦いで徳川に刃向かったため大きく所領を減らされ30万石での存続を辛くも認められました。その後、更に嗣子が無いまま藩主が没するという家名断絶の最大危機を迎えましたが、保科正之の尽力によって半分の15万石減封で存続できました。一方、これらの度重なる危難の中、身代が最大時の１／８へとなってさえ、最大時における家臣から一人として解雇しなかったため、当然の様に財政破綻の寸前に陥ってしまいました。
藩主となった鷹山は、様々な改革を行いました。質素倹約、学問の奨励、殖産興業に取り組みました。そして、近世において最大と云われる飢饉であった「天明の大飢饉（1782〜1788年）」の際でさえ、領内から餓死者を一人も出しませんでした。
下記「内閣府ホームページ」でも詳しく紹介されていますが、鷹山は自助•互助(共助)•扶助(公助)の思想を掲げ、国の基は民である、との立場に立って、財政破綻と飢餓から米沢藩と領民を守りきったのです。
“コラム 上杉鷹山の『三助』の思想
米沢藩主上杉鷹山は「民の父母」としての藩主の根本方針を次の「三助」とした。すなわち，
・自ら助ける，すなわち「自助」
・近隣社会が互いに助け合う「互助」
・藩政府が手を貸す「扶助」
具体的には，「自助」実現のために，鷹山は米作以外の殖産興業を積極的に進めた。また，「互助」の実践として，農民には，五人組，十人組，一村の単位で組合を作り，互いに助け合うこととした。特に，孤児，孤老，障害者は，五人組，十人組の中で，養うようにさせた。一村が，火事や水害など大きな災害にあった時は，近隣の四か村が救援すべきことを定めた。
天明の大飢饉では，藩政府の「扶助」として，藩士，領民の区別なく，一日あたり，男，米３合，女２合５勺の割合で支給し，粥として食べさせることとした。鷹山以下，上杉家の全員も，領民と同様，三度の食事は粥とし，それを見習って，富裕な者たちも，貧しい者を競って助けたという。“
（引用：内閣府ＨＰ（防災情報のページ））
一方、初めてのブログ「（災害対応の）現場を知っている強味」（2018年６月18日）において、「自助・共助・公助」について以下の様に紹介しました。
『・・・「自助」は住民が自分と家族の安全を確保することで、自らの命は自らが守る、平時より自ら災害に備えることです。また、「共助」は自主防災組織等が地域で互いに協力することで、近隣が互いに助け合って安全を確保する、平素から防災等の計画を立案し防災訓練を行い、自主防災組織等の維持・向上を図ることです。最後に「公助」は国・地方公共団体等が公的立場から住民の安全を確保する責務を負っているものであり、関係機関と連携し住民の生命、身体、財産等を保護し安全を確保する、地域防災計画に基づき防災体制を整備するものです。防災は時間との闘いでもありますので、待っていても発災当初は誰も来てくれません。自らが自らを守り（自助）つつ、近くの方たちと協力して互いに助け合う（共助）ことが重要なのです。・・・』
災害に関して、今はよく使われる「自助・共助・公助」という用語ですが、その原型は江戸時代、一国の大名が領内において既に「自助・互助（共助）・扶助（公助）」と提唱するとともに率先して実践し、最大の危機となった天災（天明の大飢饉）からすべての領民と藩（国）を守り切ったということに驚きを禁じえません。
ケネディ大統領が日本の政治家で最も尊敬する人物は「上杉鷹山」と即答したことに素直に納得するとともに、同じ日本人として外国の方から教えて貰ったことに反省し、自らの日本の歴史を広く学び直す必要性と、特に防災に関する「先人の教え」について真摯に取り組んでいくべきであると私自身、気持ちを新たにしました。
